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食品製造業の生産性を向上させるための具体策と成功事例コラム
食品製造業は、世界中で人々の食生活を支える重要な産業です。しかしながら、多くの企業が生産性の向上に苦労しているのも現実です。この記事では、食品製造業の生産性向上のために欠かせない要素や具体策、成功事例を紹介し、今後の展望についても考察していきます。
食品製造業の生産性が低い理由食品業界の特徴
食品業界と一言で言っても、大企業から完全手作業の中小企業まで非常に多くのバリエーションがあります。
一般的に分類する場合は「製造品目による分類」に加えて「販路による分類」「生産設備形態による分類」があり、タイプ別に抱えている課題は異なります。
ただ食品製造業に言える事は、参入の壁が低く(加工技術度が低い)既存商品から新商品まですぐに真似をされてしまうことです。そうなってくると、市場(流通業界)からの要求は、多品種で製品ライフサイクルが短く、また手間のかかる商品の要求など、手間と切り替えの負荷が増大していく方向にあり、大型ライン化が難しい状況にあります。コンビニなどのスイーツがその典型的な例になります。
食品業界の雇用事情
経済産業省の調査によると、2020年の食料品製造業の従業員1人あたりの労働生産性は672万円。製造業平均(1073万円)の6割にとどまっており、製造業のなかでも、食品製造業の労働生産性は低い部類に位置することがわかっています。
さらに、日本の2020年の1時間当たり労働生産性はOECD加盟38カ国中23位、1人当たりでは28位と、1970年以降で最も低いランクに位置しています。
このように、世界的に見ても労働生産性が低いとされる日本において、さらに下位に位置する食品製造業の労働生産性は、常に事業者にとって大きな課題として認識されています。
日本の食品製造業の生産性の課題とその背景
国内市場への依存
戦後、日本の人口増加と共に、経済も急成長を遂げました。そのため、食品製造業は国内のみをターゲットにしても十分に利益をあげられる状態が続きました。しかし、2004年を境に日本の人口減少が始まり、経済も減少傾向に転じます。また、少子高齢化が進み、一人当たりの消費量も低下しており、食品需要は徐々に減少しています。
このような状況下でも、日本の食品製造業は内需に依存を続けているため、自動化導入による生産性の改善などが行われませんでした。徐々にマーケットは縮小しているにもかかわらず、現状維持を続けていたことが、現状を作ったと言えるでしょう。
生産性向上の遅れ
一方、食品製造業はノウハウ伝達の流れが希薄な業界です。各企業が独立して生産を行っているため、大企業によって、最新技術や生産性向上の技術や品質管理のノウハウが編み出されたとしても、それが中小企業に共有されにくい状況だったのです。結果、日本の食品製造業全体としての生産性向上が遅れてしまったと考えられます。
人手の必要性が高い食品製造
人手不足・人材不足
食品工場には、多くの工程での人員配置が必要となります。しかし、食品製造業にとって人手不足は非常に深刻な状況です。設備があるのに、人的リソースが確保できないと、生産ラインの停止や品質の低下が生じてしまう可能性があります。これは言い換えると、人手に頼った工程が多いことが原因とも言えるでしょう。
人に頼る工程が多い理由としては下記の4点です。
・多品種少量生産
・製品ライフサイクルが短い
・製品の形状や性質が一定でないため
・環境悪化や季節の影響を受けやすい
人員定着率が低く、改善が定着しない
食品メーカーは相対的に他業種と比べると賃金が安いため、個々の作業は難しくないが、モチベーションは低い状況です。その結果、人員が定着せず、常に採用活動、教育活動に振り回され、安定生産ができず改善が定着しません。特に人手作業が中心のところは「作業のやり方」「やらせ方」によって生産性が大きく変わるため、作業密度管理(労働生産性)を細かく行わなければ現場任せ生産になり必要以上の人員を抱えることになります。また、連絡ミスや情報が共有されていないことが原因で、生産個数を間違えたり、材料不足という生産に関わるトラブルを招きます。
材料調達や在庫管理ミス
食品製造においては、適切な材料調達と在庫管理が重要です。ここでミスが発生すると、製造自体が停止してしまう恐れがあります。そのため、本来であればデータドリブンな管理が求められますが、多くの現場では発注担当者の経験に頼った発注等が行われています。
なお、在庫管理の意味では賞味期限や消費期限も重要です。廃棄ロスが発生すれば、それは企業にとって大きな損失です。全体で見れば、生産性を落とす結果にもなるでしょう。
生産性向上のメリット
生産量の拡大
ライン製造設備の稼働状況の可視化や改善活動などにより、従来と同じ製造設備・人的リソースでも設備の稼働率を向上させるアプローチです。それにより生産性が向上し、需要増にも耐え、販売機会を逃がさない製造が可能となります。
コスト削減
生産性向上のためにラインの自動化やデジタル化などにより、従来より少ない作業者で製造ラインの稼働を可能とするアプローチです。人件費削減はもちろん、人手不足を解消するための施策としても有効です。
品質安定化
生産性向上のために作業の見直し・マニュアル化を進めるアプローチです。人的ミスの削減や生産する製品の品質安定化に寄与します。
このように、製造ラインの効率化にはさまざまなメリットがあります。
生産性向上のための具体的な施策
AIやIoTなど最新のデジタル技術の導入
AIやIoTなど最新のデジタル技術の導入の効果には、生産性の向上や省人化といった大きなメリットがあります。
さらに、過酷で面倒な作業をAIやIoTが行うことにより、社員満足度の向上や品質の安定・需要にあった生産を可能にし、顧客満足度の向上といった二次的な効果も多数報告されています。
このような状況を踏まえ、農林水産省では、ロボット、AI(人工知能)、IoTなどの先端技術の導入支援や、その技術の橋渡し役となるシステムインテグレーター(SIer)*との接点づくりの促進を図ることにより、食品産業におけるイノベーションを創出し、食品産業の生産性向上を推進しています。
点検・報告業務のデジタル化
従来、工場における点検業務は大まかに「チェックシートや手順書の印刷・準備」「現場での点検作業」「オフィスに戻っての報告書作成」というフローで行う必要がありました。点検業務のボリュームにもよりますが、これらの業務は作業者にとって大きな負荷となります。例えば、チェックシートや手順書の印刷一つとっても、かなりの時間が必要です。
点検業務にタブレットを導入することで、これらのフローを大幅に省略することができます。チェックシート・手順書の印刷は不要となり、現場の点検作業においてもタブレットに点検結果を入力する運用が可能です。入力された点検結果をもとに、自動でそのまま報告書の下書きを作成するような仕組みも構築できます。また、点検対象となる機器・設備の写真撮影などもタブレットで実施することで、報告書に自動的に写真を添付することもできるでしょう。これらの取り組みにより、点検業務に付随して必要であった一連の作業を削減することができます。
工場内の可視化
工場内は、様々な要因でヒトやモノの滞留が発生することがあります。典型的な例がエレベーターです。需要量に対してエレベーターの運搬能力が低いと、エレベーターで待ち時間が発生し、効率的な業務の妨げとなり生産性の低下につながります。エレベーターは時間帯や日程などによって需要が変化するため、滞留発生の原因分析も必要となります。そこで、工場内でどのような形で滞留が発生しているのか、混雑分析を行うことが有効となります。
工場内のどの地点でどのような要因により滞留が発生しているのかを突き止めたら、導線の改善や設備の増強など、滞留を解消するための対策につなげることができるでしょう。
導入事例
オーマイ株式会社「AIでパスタの包装検査を自動化」
導入事例
AIを利用してシール部分の検査。AIはパスタの色味といった特徴を学習し、大きさや形が変わってもシール部分に噛み込まれたパスタの特徴を見つけ出すことが可能で、高い精度で検査を行うことができる。
この装置を導入した結果、検査作業が自動化され、ラインスピードがアップし、工程の労働生産性を11.5%、工場の労働生産性を3.7%向上させることに成功した。
株式会社やまやコミュニケーションズ「たらこのグレード選別を自動化」
導入事例
形や色や破れなどのグレード選別をAIで識別できるシステムを開発。また、その結果をさらに選別する機械を独自に開発した。
たらこの上面を3か所から撮影。次にたらこを反転させ下面も3か所から撮影。6画像をAI判定し、贈答用、量販店用、自家需要用の各グレードごとに排出。このあと重量選別機による選別を行い、選別作業が完了する。
選別制度は、導入前に比べて、5%から15%向上。生産性の向上率は142%となりました。
副次的効果として、初心者でも高精度で高効率の選別が可能になり、人材不足の製造現場に大きく貢献する結果となりました。
まとめ:フードテックが導く未来の食文化
食品製造業では、多品種少量の生産や商品のライフサイクルが短いこと、そして労働力不足といった課題に直面しています。特に、製造コストが高く利益が少ないため、生産性を向上させることが大きなテーマです。また、日本の食品製造業は、他の業界に比べても労働生産性が低いとされています。その背景には、国内市場への依存や技術やノウハウが十分に共有されていないことが挙げられます。こうした課題を解決するために、AIやIoTといった先端技術の導入が進んでいます。例えば、AIによる検品の自動化や、タブレットを使った点検業務の効率化が進められています。具体的な成功例としては、AIを活用したパスタ包装検査の自動化や、たらこの選別作業の効率化が挙げられ、労働力不足の解消にも役立っています。今後も、これらの技術が生産性向上の鍵を握ると期待されています。
参考文献
・株式会社内田洋行「食品製造業の更なる生産性向上を目指して~スマート食品産業の推進~」より
https://www.uchida.co.jp/system/report/20220030.html (参照 2024-10-02)
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