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食品工場の熱中症対策【ハード編】|現場の環境を改善する設備とツールコラム

食品工場・飲食現場での熱中症対策では、環境を改善する「ハード面」の整備が大きな効果を発揮します。特に、高温多湿な作業場や火気を扱う加熱エリアでは、設備面の対策なしにはリスクを十分に抑えられません。
本記事では、食品業界に特化したハード対策をテーマに、導入しやすい具体例とそのポイントを詳しく紹介します。
★食品工場の熱中症対策【基本編】はコチラ
なぜ設備・環境が重要なのか
高温多湿の作業環境は“潜在的な危険地帯”
食品工場では、フライヤー・スチーマーなどの加熱機器が常に稼働しています。狭い厨房スペースや密閉構造の製造ラインでは、熱がこもりやすく、空調も十分に行き届かないケースが多く見られます。そのため、通常の職場以上に熱中症のリスクが潜んでいます。
ハード対策は“予防”だけでなく“安全管理”にも直結
作業環境を整えることは、熱中症の予防だけでなく、労災の未然防止・作業効率の向上・従業員満足度の向上など、複数の効果をもたらします。
厚生労働省のガイドラインでも、事業者は作業環境の温熱条件を把握し、必要な措置を講じる努力義務があるとされています。
出典:「職場における熱中症予防対策マニュアル」厚生労働省、2023年版
設備・機器でできる主な対策
スポットクーラー・ミストファンの設置
局所的な冷却が可能なスポットクーラーは、加熱工程や高温多湿エリアにおいて効果を発揮します。ミストファンとの併用で体感温度をさらに下げることができ、作業者のストレス軽減にもつながります。 ポイントは、動線や機械の配置に干渉しない場所への設置と、定期的な清掃・メンテナンスによる運用の持続性です。
送風機・換気システムの強化
空気の流れを意識した送風と換気は、熱が滞留しやすい構造の食品工場では不可欠です。吸気と排気のバランスが悪いと逆効果になることもあるため、専門業者に換気設計を依頼するケースも増えています。
また、フィルターの定期清掃や、排熱の逃げ場をつくる設計の見直しも併せて検討するとよいでしょう。
遮熱・断熱の工夫
屋根・壁・床からの輻射熱を抑える断熱対策は、工場全体の室温上昇を緩和します。特に天井が金属製の場合は断熱材の導入効果が大きく、夏場のピーク時には5〜7℃の温度差が生じることも。
加えて、日射の差し込む窓には遮光フィルムや断熱カーテンを設置し、室内の温度上昇を防ぎましょう。
個人装備による冷却対策
空調服・ファン付き作業着
長袖の衛生服が求められる現場では、ファン付き空調服が救世主になります。衣類内に風を送り、汗の蒸発を促進することで、体感温度を3〜5℃程度下げる効果が期待されます。
最近では、衛生基準に適合した白系カラーや抗菌仕様の空調服も登場し、食品工場への導入が進んでいます。
冷却ベスト・ネッククーラー・保冷材の活用
冷蔵庫で冷やして繰り返し使える保冷剤入りの冷却ベストや、首元を冷やすネッククーラーは、空調服が使えないエリアや個別支給に適しています。
注意点は、交換頻度・保管場所の明確化と、スタッフの使用ルールの徹底です。導入時には、「誰が・いつ・どこで」使うのかを明文化しましょう。
小規模店舗・予算制限がある現場の工夫
限られた環境だからこそ必要な工夫
小規模店舗や従業員数の少ない現場では、広い空間や大規模設備を導入できない場合も少なくありません。さらに、店舗面積の制限や厨房機器との兼ね合いなど、現場ごとに異なる制約があります。そうした環境にこそ、“小さな工夫で大きな効果を出す”発想が求められます。
コストを抑えて実現できる対策例
すべての事業所で大規模な設備投資ができるわけではありません。そこで、低コストでも実行可能な現実的な対策を紹介します。
扇風機+保冷剤で簡易冷却ゾーンをつくる
調理場の近くや更衣室に、保冷剤と扇風機を設置することで即席の涼感空間を用意できます。冷蔵庫で冷やしておける保冷材は、交代制で繰り返し使える点も経済的です。
窓への遮光カーテン設置で日差しをカット
遮光シートやアルミフィルムを貼ることで、夏場の日射を30〜40%抑える効果があるとされています。材料費も安価で、DIY感覚で導入できるのが魅力です。
空調の効いた避難スペースを1箇所設ける
調理場や倉庫の一角など、冷房の効いたスペースを確保して「定期的に休憩できる」環境を整備しましょう。大切なのは、作業中でも堂々と休憩できる雰囲気づくりです。
補助金や助成金の活用も視野に
地方自治体や中小企業支援団体では、熱中症対策設備の導入に関する助成制度を設けている場合があります。空調設備や断熱工事、冷却装備の導入に対して補助が受けられることもあるため、補助金の情報収集・申請サポートの活用も有効な手段です。
こうした工夫や外部制度を活用することで、限られた予算内でも着実に対策を講じることができます。
実際の導入事例
事例1:製パン工場(東京都)
改善前の状況
加熱ラインでは大型オーブンやスチーム装置が並び、夏場は作業場の気温が35℃を超えることもありました。冷房はほとんど届かず、毎年数名が軽度の熱中症で一時退避を余儀なくされていました。
対策と効果
加熱ラインにスポットクーラー6台を設置。室温が平均3℃低下し、猛暑日でも熱中症による休憩者ゼロを記録。
事例2:惣菜厨房(埼玉県)
改善前の状況
天井が低く、換気が不十分なため、調理中の蒸気が充満して作業場がサウナのような状態になっていました。従業員から「午後になると集中力が持たない」との声が多く、パートスタッフの離職も目立っていました。
対策と効果
遮熱フィルムと排気ファンを導入し、蒸気のこもりを改善。従業員の「暑さ疲れ」訴えが半減し、作業効率も向上。
事例3:小型飲食店(大阪府)
改善前の状況
厨房が狭く空調が効きづらい構造で、冷房機器の増設も難しい状況でした。スタッフからは「首にタオルを巻いてしのぐしかない」といった声が上がり、作業中に疲労が蓄積していました。
対策と効果
冷却ベストとネッククーラーを全員に支給。導入コストは3万円以内。翌年からの継続使用も定着し、スタッフからも好評。
ハード対策を定着させるには?
継続運用のために必要な工夫
設備は導入しただけでは意味がありません。使い続けてもらうためには、以下のような「仕組みづくり」が重要です。
メンテナンス担当者の設置
掃除・点検を習慣化。誰がいつ点検を行うかを決め、清掃記録を残すと効果的です。
使用ルールの明文化と可視化
空調服の使用開始時期、冷却ベストの交換基準、使用禁止時間帯など、現場の動きに即したルールを文章化し、掲示板などに見える形で周知します。
スタッフの声を反映した改善
実際に使っている人の「使いづらい」「冷えすぎる」などの声を聞き、機器や運用方法を柔軟に見直すことが、長期的な定着に繋がります。
定着を妨げる“よくある壁”とその対処法
「忙しくて使えない」問題
現場は常に時間との戦い。忙しさを理由に冷却装備の使用が後回しになるケースが多くあります。タイミングを仕組み化(交代制・時間割導入)し、全員が使える環境に変えていきましょう。
「管理が面倒」問題
空調服や冷却ベストなどの備品管理が煩雑で、担当が決まっていないと運用が続かないことがあります。 備品のストック数や交換スケジュールを一覧化してみると管理がしやすくなります。また、チェックリスト運用も有効です。
「効果がわからない」問題
機器を使っても効果が実感できないと、現場の使用率が下がってしまいます。導入前後の温度・体調・休憩時間などを比較してみましょう。「効果の見える化」をすることがスタッフのモチベーションにつながります。
設備は導入しただけでは意味がありません。 使い続けてもらうためには、以下のような「仕組みづくり」が重要です。
まとめ
ハード面からの熱中症対策は、命を守るための第一歩であり、働く環境そのものを改善する投資です。大がかりな設備がなくても、今あるものを活用し、現場に合った方法で工夫することが大切です。 まずは「暑さの見える化」と「改善できることリストの作成」から始めましょう。そして、ルールや教育といったソフト面の対策と組み合わせてこそ、持続可能な熱中症対策が実現します。
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