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食品工場の熱中症対策【ソフト編】|ルール・声かけ・教育で守る職場の安全コラム


 食品工場や飲食店舗の現場で、命を守る熱中症対策。その中でも“人の行動や意識”に着目した「ソフト対策」は、最も日常に根づきやすく、かつ実効性のある手段です。ハード対策が環境を整えるなら、ソフト対策はその環境を「どう使うか」を決める力。特に食品業界では、衛生管理との両立が求められるため、現場に合ったルール設計や教育が欠かせません。

 本記事では、すぐに導入できて、現場で効果を発揮する“ソフト面の熱中症対策”を、実例とともにわかりやすくご紹介します。

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ソフト対策とは何か?

人の行動・意識を変える“無料で始められる”安全対策

 ソフト対策とは、空調機器や服装などのハード対策とは異なり、「人の動き」「ルール」「教育」によってリスクを減らす取り組みのことを指します。これらは設備に頼らず、人の行動や仕組みで安全性を高める手法であり、実践には現場の意識と日々の工夫が重要になります。

ソフト対策の特徴とは?

 ソフト対策の特徴として「コストをかけずに始められること」「制度や仕組みとして組み込みやすいこと」「現場ごとに柔軟にカスタマイズできること」の3点が挙げられます。マニュアル化やルール化によって、誰が担当しても一定の効果が見込める再現性の高さも大きな利点です。

どんな取り組みがあるのか?

 たとえば、給水や休憩のタイミングを決めるルールを作ったり、猛暑の時間帯に負荷の高い作業を避けるようスケジュールを調整したりすることもソフト対策の一つです。また、日々の朝礼での体調確認、スタッフ同士の声かけ、研修を通じて熱中症への理解を深めることも含まれます。

導入のハードルが低い理由

 こうした取り組みは、設備投資を伴わずに始められる点で導入のハードルが低く、すでにあるリソースや人材を活用しやすいのが特長です。必要なのは大掛かりな工事や機器の購入ではなく、現場の理解と意識づけ。だからこそ、現場ごとにカスタマイズしながら、即座に着手できる柔軟性も大きな魅力です。

ソフト対策の基本|日々のルールを見直す

水分・塩分補給ルール化・ルールの見直し

なぜ「ルール化」が必要か?

 食品現場では衛生管理の都合上、好きな時に水分補給できないケースも多く見られます。そこで、計画的に給水のタイミングを設けることが非常に重要です。

実施例と工夫

 たとえば、1時間ごとの給水タイムを設定してアラームなどで全員に周知する仕組みを導入する、衛生区画外に給水エリアを設ける、経口補水液や塩飴を共用エリアに常備する、といった対策があります。

「水を飲むことを推奨する」だけでなく、「飲むタイミングをルール化する」ことがカギとなります。

作業スケジュールの工夫

時間帯・作業強度の最適化の必要性

 日中13時〜15時の暑さのピーク時間帯に重労働が集中すると、熱中症のリスクが高まります。特に食品工場では、火気を扱う工程や高温の機械がある場所での作業が多く、この時間帯に過度な作業負荷がかかると、体温調整機能が著しく低下します。

 作業強度と時間帯を見直すことは、熱中症の“予防”だけでなく、“職場の安全管理”そのものと直結しているのです。


実施例と工夫

 たとえば、体温申告を義務づけたり、暑さ指数(WBGT)を見える場所に掲示したりすることで、スタッフ自身が暑さに対する意識を高めることができます。また、体調カードを用いて当日の体調を自己申告する仕組みを設けることで、周囲のスタッフも変化に気づきやすくなります。

声かけと相互チェックの仕組み化

「大丈夫?」の一声が命を守る

 熱中症の初期症状は本人よりも周囲が先に気づくことが多いため、日頃の声かけが重要になります。「顔色が悪い」「動きが鈍い」といったちょっとした違和感を見逃さず、気軽に声をかけられる関係性を築くことが、職場全体の安全につながります。

相互チェック体制の構築

 現場では、安全担当や見守り係などの役割を交代制で担う仕組みを導入すると、責任感を持って互いの体調に注意が向くようになります。体調チェックを行うための見守りシートを使い、異変を感じたら即時に報告→避難→対応の流れを習慣化することで、いざという時の初動が速くなります。

教育と研修で意識を育てる

朝礼・日報での継続共有

 毎日の朝礼や日報で、昨日の体調不良者の有無や気づき、ヒヤリハット事例を共有することで、危機意識が高まりやすくなります。1日1分でも「熱中症に関する一言」があるだけで、現場全体の意識が変わっていきます。

新人研修への組み込み

 新人研修時に「熱中症対策マニュアル」を配布し、症状の種類や応急処置の手順を教育することは、非常に効果的です。軽度のめまいや頭痛から重度の意識障害に至るまでの変化を理解させ、異常を感じたらすぐに報告するよう徹底します。また、保冷剤や補水液の保管場所や、休憩所の位置など、具体的な行動に直結する情報も併せて伝えます。

無料ツール・教材の活用

 厚生労働省や自治体が提供している熱中症対策の動画やポスターなどの教材は、視覚的な教育に非常に有効です。暑さ指数(WBGT)を説明する資料や、スタッフの体調をチェックするカード類も無料で利用できるため、現場に合った内容を組み合わせて教育効果を高めましょう。

ソフト対策の運用を習慣化するには?

続かない“3つの壁”とその対策

忙しくて声かけができない

 業務に追われると声かけや確認が後回しになりがちです。あらかじめ給水タイムを決めておくと、無理なく継続できます。

形だけのチェックで終わる

 チェック表を回すだけで終わってしまうことがあります。簡単な一言共有や声かけを添えるだけでも効果が上がります。

暑さへの意識が薄れていく

 慣れてくると油断が生まれがちです。月1回のミーティングやポスター掲示で意識の維持を図りましょう。

ハード対策と連携して効果を最大化

給水ルールと装備の併用で実効性アップ

 たとえば、給水ルールを決めても、作業中の発汗量が多いと補いきれません。空調服や冷却ベストを併用すれば、身体への負担をさらに軽減できます。

教育と備品配置を連動させる

 熱中症対策の教育をしても、実際に現場で保冷剤や経口補水液が手に届かなければ意味がありません。学んだことを“行動に移せる仕組み”を用意することが大切です。

実際の導入事例

事例1:惣菜製造工場(京都府)

改善前の状況

 新人スタッフが給水のタイミングをつかめず、無理をして体調を崩すケースが見られていました。現場全体で水分補給が個人任せになっており、統一したルールが存在していませんでした。

対策と効果

 全員で給水タイムを声かけする仕組みに変更。アラームによる通知と声かけを徹底した結果、2023年夏は熱中症による離脱者がゼロとなりました。特に新人スタッフからは「飲んでいいんだという安心感がある」と好評です。


事例2:冷凍食品加工会社(千葉県)

改善前の状況

 熱中症の初期症状に気づくことができず、スタッフの不調が見逃されてしまうケースが多発。対策が「注意喚起ポスター」の掲示のみにとどまり、日々の行動に落とし込めていませんでした。

対策と効果

 入社時に熱中症対策マニュアルと暑さ指数一覧表を配布。さらに、声かけ回数を日報で記録する制度を導入。スタッフ間での意識が向上し、気配り行動が増加。体調不良の早期発見につながりました。

事例3:飲食チェーン店(全国)

改善前の状況

 忙しい時間帯にスタッフが体調を申告しづらく、無理をして勤務を続けた結果、搬送事案が発生。体調の“見える化”がまったく行われていない状態でした。

対策と効果

 暑さカード(赤・黄・青)をスタッフに携帯させ、その日の体調を可視化。体調不良者の報告率が大幅に上昇し、周囲の声かけの質も改善されました。「無理をせず申告できる」職場文化が定着した好例です。

まとめ

 ソフト対策は、費用をかけずに命を守る工夫が詰まった方法です。日々のルール、声かけ、教育、そして職場全体で意識し合う文化を根づかせることが何より大切です。給水や休憩の仕組みづくり、スケジュール調整、体調申告、教育やマニュアルの整備まで、現場ごとにできることから始めてみましょう。そして、ハード面と組み合わせることで、より安全で持続可能な職場を実現できます。

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